パコンッと響くのはテニス部の球の音。それと同時に開く教室の扉はここに
居るはずもない初秋の風と跡部景吾のものだった。

私はそちらを向いて不思議そうな顔をしているが、相手はそれを気にせずツ
カツカと私に近付いてくるのだ。何故、跡部君がココにいるのだろうか。今は
朝練でもまだ早いほどで、テニス部の音がするから、跡部君が打っているの
かと思っていたのに。



「何故俺様がここにいるんだって顔してるな」



見抜かれた。というか、私を見れば誰でも分かるだろうが、これもインサイト
なのだろうか。こんなことを見抜かれても私は何も気にしないよ、跡部君。
私が見抜いてほしいのはそんな事じゃない。



、俺も日直だぜ?」

「ぇ、・・・そっか」



そうだ、忘れていた。今日は跡部君と日直だったんだ。好きな人と日直が同
じな事、忘れるなんて変だよね。でも、跡部君にしては遅い登校じゃないの
かな。



「今日は、少し遅いんだね」

「あぁ、ここに来る前に少し練習してたからな」

「凄いね」

「"凄い"か・・・」

「聞き飽きた言葉だった?」

「・・・まぁな」



好きな人との会話とは、自分自身でも思えないほど簡単な事だった。ドキドキ
とか、全然しないし。本当に私は彼が好きなのだろうか、そう考えてみると顔
が緩むので、やはり好きなのだと再確認した。



には俺がどんな風に見える?」



跡部君は透いた目を細めて、何か悲しそうにも見える。皆の期待に応えるの
は当然軽いものなんかじゃない。でも、跡部君はそういった事を考える人では
ないと思っていたのに。意外というか、私にそんな事を聞いてくれたっていう
のが凄く嬉しい。



「外面から見れば完璧、私からみると・・・」



風が吹く。髪が靡く。静まった空気に、見詰め合うキミと私。全てのものが、
キミ以外 私の答えを知っているようで。でも知りたがっているようで。居心地
が悪くなる。



「芸術人...?」

「何だよ、ソレ」

「芸術的な人間ってことかな」



自分で言って混乱する。でも、そんな感じ。最初っから完璧な人間なんてい
ないから。跡部君は努力があってこその存在だと私は思ったから、自分で作
って自分に華を咲かせているような。それこそ努力家って言うのかもしれない
けど、跡部君にそんな言葉は似合わない、そう思ったから自分なりにアレン
ジしちゃった。



「でもやっぱ凄いや」

「何処がだよ」

「うーん...毎朝早くから練習してたり、部員への気遣いとか、あと授業はやん
なくても分かるのに真面目に聞いてるところとか?」

「・・・俺のことよく見てんだな」

「ん、まぁね」



少し自分の想いがばれそうになっても、それを見抜かれたいって思う。私は
矛盾してるのかもしれない。が、恋する乙女は大抵こんなもんだ。探られな
いように窓を空けようと席を立った。それに気付いたのか、跡部君も鞄を置
いて、窓を空けに優しい光が入ってくる方へと近付いて行く。



は毎朝、来るのが早いな」

「・・・え?」

「朝練もねぇのに、な?」



跡部君は口端を上げてこちらを見透いているよう。

私は毎朝、朝練がある皆よりも早く学校に来ていた。それを跡部君が知って
いたなんて...予想外。何故早く来ているのかと聞かれれば、跡部君を見る為
だなんて言える筈がない。だが、本人はもう気付いていたようだ。どういう反
応をしたらいいのか、急に分からなくなって身体が硬直する。



「あ、朝の空気が...気持ちよくて!」

「この俺様に嘘を吐くとはな、アーン?」

「ッ・・・今の時期だけだよっ」



咄嗟に言い訳を考える。跡部君が気付いたとしてもそんなに早くは気付いてな
いはず。そう思って、一定の期間だけだと私はまた嘘を重ねる。秋の風が気持
ち良いからだと。



「お前の"今の時期"っつうのは何年間だよ」

「ッ・・・!?」



その跡部君の言葉に驚きを隠せなかった。というか驚きより羞恥心で顔が沸騰
しそうなくらい熱くなる。この朝早く来る日課は一年生からしていたことで、"何年
間だよ"って聞かれたってことは最初から知られてた訳で。



、」

「ぁ...」

「お前は俺様の太陽だぜ?」



そう言って、窓を空けながら私を見るキミの顔は優しすぎるくらいの頬笑みだっ
た。私には勿体無い程の素直な優しさが、悲しいぐらいに早く通り過ぎて。見
抜かれていて、相手も私に好意を持っているとしても、自ら告白の言葉など発
する気にはさせないほど・・・


































     (私を透明にするから)  (見抜かれる、でも速すぎて届かない)






















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 ぇ、何この中途半端な内容は...?

 この夢主・・・変な子ですねぇー
 というか、書いていて
 「アレ?跡部ってこんなに優しかったっけ?」
 と思ってしまいました;




091004