昼間なのに空を見上げて思う。一番星って何だろう。辞書には『夕空に最初に輝
きだす星』と記されてる。けど私は、一番星が輝きだした順位っていうのは間違っ
ていると思う。輝きだしたのが遅くても、きっと一番星に生れるよ。君なら出来る。



「でも輝きだしたら止まらない」



私は悲しく呟く。だって、悲しいから。置いていかれてしまったから。その輝きは何
倍にも増して、この手に収まらないほどに光を発する。一番近かったものが他者
の一番になってしまったとき、私は私の輝きを失ってしまうよ。君が輝きすぎて白
く、見えなくなってしまうから。

中学1年生の春頃、確かに私は彼の一番になった。会ったばかりの景吾は私と
付き合って、今までこの不安定な関係を繋げてきたつもりだった。楽しすぎた1
年生の頃の空想は、今は跡も残さない。



「遠い遠い一番星、みーつけた」



4階の窓越しから外を指差す。この学校は昼休みの時間には長すぎるくらいの
余裕がある。お弁当を食べ終わった後だって、こうして愛しい人を遠くから眺め
ることだって出来る。ギャラリーの中心には一番輝いている星がいつだって満
足げに笑ってる。



「それでいいんだよ」



語尾に「恐らく」と付けたくなるんだ。だって今君は幸せでしょ?信頼できる仲間、
頼りにしてくれる学校中の生徒。君を疑ったり、逆らったりする者はもう何処を探
したっていない。その星はもうなくてはならない位置に君臨している。神々しく、華
やかに。それを皆望んでいる。



「私以外はね」



私はいつだって思い望む。君が周りからの信頼を無くして、独りぼっちになること
を。1年生、俺様がキングだと言った君はまだ幼い。君は帰国子女で、皆には一
目置かれた存在であった。私は最初、面倒な奴とクラスが一緒になったと思った
けど、一緒に日直をした時「失敗を恐れるのは、悪いことじゃねぇよな?」と聞か
れ、初めて気が付いた。景吾は独りぼっちなのだと。



「今は変わってしまったけど」



一緒になったと思った途端、私がまた独りぼっちになっていた。何もかもこなして
いった君は忽ち生徒会長や部長の座に立ち、一番星になった。人望を集めた君
は忙しすぎて、ふと私の事を忘れてしまったのだろう。2年生の夏の大会には私
が応援に行ったのも気いていない。



「私もメス猫の一匹ね」



目が、合った気がした。あっちはこっちを見ている。こちちはあちらを見つめてい
る。私は君に手をかざすとその場を離れた。居心地が悪くなったから、じゃない。
ただ、やっとサヨナラを言えた気がしたから、もう終われると肩を落としただけだ。



「きーら、きーら、ひーかーる」



階段を上り、屋上に向かう。足音が周りの雑音と絡んで私の耳には聞こえないけ
ど、身体から電流みたいに伝わってくる。透明な液体が頬を何度も滑るのを、遠
い君には到底見えることなどない。



「おーそぅらーの、ほーしーよ」



屋上の扉が光る。今日は快晴だ。夜には満天の星が浮かぶだろう。私は星にな
る。君のような一番星にはなれないけれど、負けないくらい瞬いてみたいから。待
っていて欲しい。君が瞬きを無くさない内に光るから。



「気っ持ちいー♪」



太陽が光る。下には街が広がっている。今日は隙間無く快晴だ。夜には星が瞬
き、輝くであろう。私もその仲間に入れて欲しい。早く君の元で照らしていたい。



「私は君が好きだよ」



愛しいからこそ、君の元へ。自分の所為だと追い込んで、落胆するのを見てみた
い。私の悪い癖。独占欲が滲み出して止まらない。ごめん、なんて遅すぎるんだよ。



「ごめn「っ!」・・・っ?」



屋上。フェンス外。広がる空、大地。それから君。君はさっきまでテニスコートに
いた筈。何でこんな所に君がいるのかって不思議に思う。



「何してやがるっ」

「私は星になるつもりだけど?」

「っに訳分からねぇこと言ってんだ!」

「訳、分かんなくないよ。景吾もそうなんだから」

「俺が何なんだ?」

「景吾は一番星になったんだよ」



君は目を開き、私を見つめているだろう。俯く私の目線には君の思いが浮かぶ。



「それ・・・」

「私が1年生のとき、景吾に言ったことだよ。『きっと君は、一番星に生れる』ってね」

「ああ、そうだったな」

「置いて・・・いかれちゃったから、私は今から星になる」



君に背を向ける。足音が聞こえて、フェンスの掴む音が響く。その行動に焦りを
感じる部分もあったが、自分では気付いていないようだ。



「何言ってやがんだっ。お前はもう星じゃねぇか」

「何故?」

「俺様の・・・一番星だろ?」



少し瞬きが弱まりを見せた。一番星は珍しく、自信を失ったらしい。振り向く。君
が近い。光りが弱くても私には眩しすぎるくらいの君は、私が星になったとしても
君に近付くことは出来ないだろうと思った。



「俺様の辞書に一番星とは『自身が愛している星のこと』だって書いてあるぜ?」

「私のには『もっとも偉大に輝く星』ってあるよ」

「ほぅ?そりゃ誰のことだ」

「別に。人物を当てはめたなんて言ってないけど」



素直じゃないって自分でも思う。でも私の一番星はコレが結構 効くらしい。面白く
なってきた、なんて感情をバカでも読み取れる表情を景吾はしている。風が吹く。
身体が揺れる。落ちることは無いが、誰かが私の胸倉を掴んだ。それは景吾だ
って分かっていたけど、彼がそんな心配なんてするとはあまり思わない。



「何、っ!?」



ガシャン、と強く私はフェンスに引っ張られる。と思った瞬間、生温さが唇に広が
った。



「んぅっ」



氷帝学園の屋上のフェンスは耐震強度の高いものだから、一つ一つのフェンス
の空間が広い。容易に景吾の腕を通してしまうし、こうやってその間からも唇を
交し合うことだって出来る。鉄臭い。でも、氷帝は何処ぞの学校とは違い、フェ
ンスは錆びず綺麗だ。



「んくッはぁ、ふざけ、ない、で!」



またフェンスが響く。私と景吾は先程より少しはなれた位置に居る。景吾の瞳を
じっと見つめる、が彼はどうやら真剣らしい。



「ふざけてなんかねぇ」

「じゃ、何?」

「俺はちゃんとテメェの一番星になっただろ?」

「うん。けど私は、」

「置いてかれたか?俺は今、の前に居るぜ?」

「そ、だね。・・・でも、」

「お前にとって、人は星だ?」

「・・・」

「冗談じゃねぇ。俺は人間だ」

「う、ん」

「星になりてぇから身を投げるなんざ、俺様がさせねぇぜ?」



彼は態とらしく、ゆっくりと口の端を上げた。かと思うと、突然フェンスを上へ上へ
と掴んでいき、あっさりと此方へ来てしまった。いつも景吾には驚かされてばかり
だ。目の前の君にはフェンス越しと違って顔が合わせにくい。



「ようこそ?」

「ハッ何がようこそだよ」

「何で、コッチ来たの?」

「お前 星になりてぇんだろ」

「え、」

「だったら、もっと俺様の一番星に生れ」

「・・・は?意味が分からないんだけど」

「俺がを愛す限り、はずっと俺様の一番星だぜ?」

「う、ん?」

「そんなんじゃ詰まらねぇだろ」

「・・・?」

「スリルってのが足りねぇよなぁ」

「そ、そう?」



目の前に居る景吾は本当に楽しそうだ。スリルが足らないと言っている景吾に私
はスリルを感じさせられている気がするけど。景吾から「お前 星になりてぇんだろ」
と言われた時、礑と気付いたことがある。私は景吾に近付くために星になろうとし
ていたけど、私はどうやら景吾の一番星だから もう星に生ろうとする必要はない。



「ふっ。では、そういう事だ」



もっと俺様の一番星に生れ、っていうのは景吾に相応しい女になれってことか。
それとも花嫁修業とまで行くのか。考えさせられてしまう。そんな悩みを浮かば
せていると、景吾からの発言を聞き取れず、私は何故か屋上の淵より外に飛
び出すように目の前の人物に仕向けられていた。



「景、吾っ?」

「俺様の女になるなら、それ相応という訳だ」



私は相応じゃなかったってこと。そして最後に聞こえたのが「愛してる」という一言
だけだ。それは嘘なのか。そんなことが過って、私は景吾に殺されたんだと思っ
た瞬間のこと。




ボスッ




「っ!?」

「クッ、ハーッハッハッハァッ!」



耳に聞こえるのは景吾の甲高い笑い声と、上に広がる眩しい光。それから下に
広がるブルーのもの。私は困惑していて、今の状況を把握し切れていない。少し
痛みを感じたがそれ程でもない痛みだ。衝撃を吸収してくれたのは柔らかいクッ
ション状のものだった。



「これ・・・もしかして景吾が?」



それ以外に考えられない。立ち上がり上を見上げる、が景吾の姿は無い。不思
議に思って辺りを見渡すと、先程落ちたときの私の鈍い音とは違うシュールな音
が耳と足と、そして目から情報が舞い込んでくる。



「どうだ。スリルを感じただろ、アーン?」




景吾はしっかりと受身の体制をとって着地したようだ。私と違って痛みも何も感じ
ていない。というか周りが騒がしい。景吾の所為だよ。そうやって又 仕向けたん
だろうけど。自分のものにマークするみたく。だから周りが噂をしても景吾は気
になんてしていないのだ。



「これからも俺様のスリルを味わってもらうぜ?」



ニヤリといつもの笑みで又、私を魅了するから。見とれていたら露知らずの内に
君は私の元へやってきて、片膝を立ててしゃがむと私の顎を支えるように持ち上
げる。当然私はキスされると思って強く目を瞑った。でも降ってきたのは愛を注ぐ
ものではなくて、私の頬をザラットしたものが滑る感触のみだった。


「しょっぱいな」

「水98.5%以外は殆ど塩分だから」

「いや、これはstardustだろ?」



嫌味なほどに良い発音は「すたーだすと」と象っている。涙の跡を舐めた景吾は
何故か嬉しそうだ。美味しかったかなんて聞かなくても分かる。コレを流したとき、
景吾とはかなり距離があったんだけどな。そして、今気付いたことがある。恋は
「甘酸っぱい」んじゃなくて「しょっぱい」んだって。



「扱い慣れない星には苦労するなぁ?」

「お互い様じゃない」



私は景吾を睨んでいる。私は景吾を見て笑っている。そんな2つが混ざった表情。
その表情が輝きに変わる お互いの思い描く一番星を見つけて重なったとき、新
しい一番星が生まれる。何よりも美しく輝く一番星が。だが その光は衰えることな
く、これからも輝きを増していくであろう。


「子供の名は 星也か星羅だな」

「やっぱり花嫁修業かぁ・・・って気が早い」



そして 今も誰かの一番星が、何処かの空で瞬いている。

Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are! Up above the world so high,
Like a diamond in the sky. Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are!



























First star of evening


      (きらめく、きらめく、小さな星よ)   (あなたは一体何者なの?)































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 やっと更新したっ!
 でも何じゃこりゃ←

 跡部って何者?
 という悩みを拗らせてしまった私
 いや俺様だから。と姉(←実はいるんです)

 ブログに「きらきら星」の和英を
 (ナントナク)載せときます^^




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