永遠なんてない。そんなこと分かってたけど、私はこれが永遠だと思ってた。だっ
て君も私も毎日が幸せで、変わり行く日常も私達だけが変化をなさずにいて。で
も君は違ったんだね。

分かってた。いや、理解しようとしなかった、したくなかった。だけなのかもしれな
い。変わることなんて無いと思ってたのは間違いだけど、本当に変わらないと思
ってたと。言わせて欲しい。思わせて欲しい。君もそうだったと、狂わせて欲しい。




                     ◇◆◇




春休みはお互いの部活があって、昨日も今日も明日も時間を合わせて一緒に帰
路につく約束をしていた。だから今日もこうして毎日のように手を繋いで転々と話
を繰り広げながら歩いている。ゆっくり、ゆっくりと。帰ることを拒むように終わりが
来ないように。



「桜、咲いたね」

「そうだな。今年もこの季節かぁ」

「んー?」

「赤也だよ。赤也!」

「あぁ。一年前の」

「あの頃は可愛げ無かったけど、今も無ぇよな」

「結局無いんじゃん」



そんな微笑ましい後輩の話。桜はまだ満開には達しておらず、6分咲きから8分
咲きほどだ。私とブン太が付き合い始めたのも丁度一年前くらいで、中学2年生
という肩書きは今では幼く聞こえてしまう。



「あ・・・」

「どうした?」

「いや、なんでもない」



春休みの宿題を学校に忘れてきた。ただ、それだけだ。私は美術部で彼はテニ
ス部。終わるのは当然テニス部の方が遅いから 学校に宿題を持って行って、彼
が終わるまでそれをやって。明日もそうなるのだから、どうせ置いておいても明日
再びそれを開くのだから。



「修学旅行楽しみだなぁ」

「てかその前にクラス変えだろぃ」

「ふふ、大丈夫でしょ」

「根拠ねぇじゃん」



苦笑いでも微笑み。毎日が昨日で、昨日が明日で、一昨日が明々後日で。同じ
だけど違って。自分に停止線を付けるわけでもなく、背中を押して開放するわけ
でもない。そんな平凡で平凡すぎる毎日が、変化などある筈もないのだ。この時
点で私は当たり前を当然に受け止めていて、平凡を平常と感じて。



「少し桜見てかない?」

「いいぜぃ」



小さな公園へ曲がり、ちょっとした寄り道をする。これも毎日のこと。ある日はケ
ーキ屋さんへ行って、ある日はクレープ屋さん。っていつもブン太が言い出すん
だけど、拒む理由なんてない。寧ろ嬉しい。この時間をこれ以上に大切にしろと
言われてもそのリミッターが足りなくなるほど大切にしているのに、どうしろって
言うのかと問いたいほど。



「わぁ・・・」

「こんくらいが丁度良いよな」



ブン太が桜の評価をするなんて、可笑しくて笑っちゃう。でも彼もそれに反発する
こともなく、一緒に笑みを零し溶け合う。歩くテンポが少し下がって、まだ涼しい風
が私達を擦り抜けて。沈黙を置いてもそれは 沈黙という言葉では勿体無いほど、
緩やかで心地の良い流れ。



「あ、」



私は思わず沈黙を破って声を発する。それはいつもの分かれ道。いつもの、いつ
もで、"いつも"だった。パッカリ割れた道にはそれぞれ違う道が広がっている。今
日はこれでお終いだ。ここは私の一日の終わりを示す場所、空間。悲しみを帯び
ているし、明日に向かう楽しみもまとっている。







いつもと違ったのは、君のトーンかな。ここで名前を呼ばれて、毎日に一本線を引
けるのは君から注がれる愛からの安心感、そして安楽の未来。だけど今日は名前
以外の言の葉を君の唇が辿った。いつもなら繋いだ手を朧ながらも心残りに離し、
「また明日」なんて掛け合って。でも手はいつの間にか独りぼっちで、寂しく揺らい
でいた。



「ぁ・・・え・・え・え、えっ?」



目の前の彼は『無』で微動だもしない。燃える日没に、燃える身体、燃える瞳、燃
え上がる全て。全てが全てでなくなった瞬間。私が未来を失った瞬間。冷たく糸よ
りも細い雫が頬を一つ伝った気がした。



「い・・・や。ぁ」



彼が口にしたのは目の先に広がっているこんな『別れ道』だった。手を伸ばせば
届くのに、触れたければ幾らでも触れられるのに。今までがどうだったかなんて、
忘れてしまった。毎日が何だったかなんて、思い出せない。私は"当たり前"も"当
然"も"平凡"も"平然"も失ってしまった。



「いつの間にか・・・お前が苦だった。もぅ"終わり"にしよう」



なんて。聞こえない。聞いてない。認めない。認めたくない。認めてなんかない。
知らない。知りたくない。知らなかった。知る余地もなかった。偽りなんて。嘘だ
なんて。あの笑顔が別人だと言うのか。



「いや・・・いや、いや!イヤイヤイヤイヤッ!!」



そんなのヤだ。嘘なんて嘘だ。偽りなんて偽だ。だって、だってだって。好きだっ
て、アイシテルって。嘘だって言って?ねぇお願い、おねがいオネガイ。



「そ・・んなのっ、納得する理由が無いままじゃ、成立なんてさせてやんないん
だからぁあっ」



びしょびしょな叫び、嘆き、私の感情の断末魔。私の思い浮かべていたものは全
部、途切れてしまった。毎日も繋いだ手も好きも愛も赤い糸も。延々に炎々として
いた日々が奄々となった。嗚呼、どうしだろうかなんて。後悔の端末。あの時、春
休みの宿題を取りに行っていたならば、自分が毎日を平凡だと当然だと感じてい
なければ、『明日もそうなるのだから、どうせ置いておいても明日再びそれを開く
のだから。』なんて、思わなければ。聞かなくて済んだのかもしれない、悲しみを
少しでも抑えられたのかもしれない、それを開くことが恐怖にならなかったかもし
れない、のに。



「ゎ、私は・・・好きだから。大好きだからっ、ずっと愛してるんだからぁッ」




びしょびしょな叫び、嘆き、私の感情の断末魔。でも決意、勇気、私の今持ってい
る全てを。そう、君は私の一番だから。それは今も前もこの先も変化しないから。
その想いだけは"当たり前"で"当然"で"平凡"で"平然"だから。それを君に投げ
つけて、愛の宣戦布告をするから。この後、君に背中を向けて駆け出したら 後ろ
も横も見ずに真っ直ぐ前を向いて進むから、君の中が私の残響で圧されるといい。






























  (私は繰り返しの毎日に、偽りなど微塵も感じてなかったよ?)   (だから今 偽りだと、嘘だと言って欲しいだけなの)

































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 春なのでこんな感じのお話を少々・・・
 別れもあれば、出会いもある季節ですね〜

 実は思いっきり「Just Be Friends」聴いて書きましたっ
 いつも泣きそうになります・・・本当に良い曲ですよね^^

 別れの悲しみ、出てましたかねー?
 悲恋とかって苦手なんですが挑戦してみました!
 こういうの時々私 本気で泣いちゃう時あるんですよww




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