寒い寒い二年生だった冬のある日。私は図書委員の仕事を終え、帰るところだ
った。空はもう暗がり、何も見えないといっても過言ではない風景が窓には広が
っていた。冬だから、部活なんてとっくに終わってる。のに...



「?」



外からは僅かに聞こえる球が跳ねる音。これは、恐らくテニスボールの音だ。こ
んなに暗い中どうやって練習をしているのだろうか。部活は全て終わってるから、
運動場の電灯は消えている筈なのに。



「こんな暗いのに、誰だろ?」



窓からテニスコートを見ようとしても、この暗さじゃ当然見えない。一応、確認しに
行こうか。そう思い、鞄を持って図書室を出る。暗い廊下を独りで歩くのは少し怖
いが、あれが誰なのか気になってそれどころでもない。



「もしかすると、白石君かも」



そう考えるだけでも胸が高鳴り、歩く足も自然と速さを増した。帰ってしまわない
うちに行かなければ、そうやって私は自分を急かした。職員玄関に着くと、閉ま
っていた昇降口から持ってきた自分の靴に履き替え、テニスコートへ向かった。


「暗いなぁ・・・」



そう、辺りは殆ど何も見えない。冷たい風が生身の足を滑らせ、私は身体を震わ
せる。早く、行こう。寒さと恐怖、それから好奇心。いろいろ混ざったものが更に私
の背中を押して、テニスコートへの道のりを辿った。



「まだ聞こえる、よね」



自分の耳にテニスボールの音を確かめる。そしてフェンスに近づき、私は思わず
カシャンと音を立ててフェンスを握った。するとパシッというボールを掴むような音
がポツリと響く。



「誰や?」



この声は、やっぱり白石君だ。そう分かった瞬間、込上げる嬉しさと胸を打つ波
が早くなるのが分かった。でも、暗くてよく見えない。真っ暗。微妙に緑色とか目
の前に広がってるけど・・・ってあれ?何故か、凄く近く感じる。



「あれ、やん」





ビクッ





少し上の方から白石君の声が、声が聞こえる。目の前という目の前に白石君の
身体があるのは気のせいだろうか。ゆっくり顔を上げ、頬笑む白石君を確認。私
固まってるよ、身体動かない。



「こない遅くまで何してたん?」

「え、あ、うん」

「・・・、『うん』じゃ分からんわ!」



見事なツッコミが返ってきた。私何を言ってるんだろう。白石君と2人っきりとか
無いからなぁ。緊張してるんだよ、うん。頑張れ私。



「えと、図書委員の仕事をやっとって...」

「今帰るとこなん?」

「うん、せやで」

「ほんなら一緒に帰ろか?」

「え?」

「暗い中、女の子一人で帰るんわ危ないし」

「だ、大丈夫やで!」

「大丈夫言われてもなぁ・・・」



心配やし、と言ってくれる白石君はやっぱり紳士だ。でもこれじゃ確認じゃなくて、
邪魔をしてしまっているような気がする。それに、白石君とは只のクラスメイトな
のに、そんなに良くして貰ってしまうと少し期待してしまう。それを求めたのは私
なのかもしれないけど、申し訳ないのと嬉しいのと止めて欲しいのと。



「悪いし、別にええよ」

「あかん」

「・・・何で?」

「心配やから、じゃ駄目なん?」

「白石君、練習中やろ?」

「あーそんなん別に ええねんって」

「そんなんて・・・テニスやん」

「あんな、そういう意味ちゃうくて」

「んじゃどういう意味?」

「うーん...ほな俺が、を送りたい言うたら?」



お願いします、って思わず言いそうになっちゃった。でも、私はまだその言葉を口
にしていない。私の中でテニスは白石君の大切な一部だと考えてる。テニスをして
いる白石君は一番だし、白石君にとっても掛け替えのないものだと思う。だから『そ
んなん』って言った白石君に少し幻滅し、少し悲しくなる。



「あ、ちょっと待っとってな」



私が恐らく眉の端を下げて上目で見ていると、白石君は何処かに掛けて
行ってしまう。待っててと言われては待ってるしかないんだけど、何処行く
んだろ。今の時間は暗くて寒いし、意識がぼうっとしてくる。でも白石君は
私の所に戻ってくる、それが何だか嬉しい。



「白石君、好き」



私の中でどんどん膨張していく白石君への思いは気付けば言葉になっていて、こ
れがもし本人に言う勇気さえあれば、伝えられているのに。好きで好きで愛しくて。
白石君のことを考えるだけで身体中が沸騰する。今の冬の寒さなんて感じさせな
いほどに。



「まだ、かな」



待ち遠しい。私がキミを見るのが、キミが私を見つめるのを。ギュッとフェンスを
握り締めて、君の名前や思い、叫びたい気持ちを抑える。どれくらい経っただろ
うか。多分まだ2・3分くらいだというのに、まるで何時間もの時間が過ぎたように
思える。



「ふぅ、お待たせ」



静かな足音が聞こえて、僅かに息を切らした白石君が登場。その容姿は制服で
学校の鞄とテニスバックを手にしていた。まだ少し、汗が残っている髪に微笑む
白石君。完璧主義な白石君にしてはちょっとパーフェクトさが欠けていたけど、普
通にかっこいいな。



「全然待ってない、よ?」

「さよか、そら良かったわ」

「え、でも...」

「テニスか?」

「うん。なんかヤラレタって感じやけど、本真ええん?」



当たり前やん、と言って微笑みながら空をチラッと見ると彼は肩を竦めた。その
小動物的行動を見ると自分より背の高い白石君も小さく見えた。思わず...



「何笑てるん?」

「わ、笑てた?」

「めっちゃ可愛く、な」



私の問い掛けに頷きながら、思いがけない言葉が口を象り、それに遅れて私の
耳に伝わる。自分でも分かるほどに急激に体温が上昇中だ。まるで、白石君に
壊されていくようにシステムクラッシュしているよう。



「今そっち行くで」



私が故障中の内に白石君は重そうな門から出てきて、「ほな行こか」と言いながら
目の前に駆け寄って来る。フェンス越しより遥かに素晴しい白石蔵ノ介という人は
やはり『四天宝寺の聖書』そのものだと思う。



「やっぱり、うん」



私は白石君が好きだ。何故か今、再確認してしまう。と、同時にふと気付く。白石
君は練習をやめて、ものの2・3分で私の所に戻ってきた。外は冬で凄く寒いし、汗
を拭く時間もあまり無かったんじゃないかと私は考える。



「何がやっぱりなん?」

「そだよね」

?」

「あ、ちょっとごめんよ白石君」

「?・・・ってなん!?」



私はいつも常備しているスポーツタオルを鞄から探し出すと白石君の頭に掛け、
ワシャワシャと髪を拭いてゆく。白石君は突然の事で吃驚しているようだ。私って
友達によく唐突、とかって呟かれるタイプなんだよね。



「どない、し、たん!?」

「白石君、練習終わって直ぐ私んとこきたやろ?せやから、汗拭ききってないんやろなぁと思て」

「んな強引な」

「ごめんな。私って唐突やねんて。自分ではよう分からんけど」

「せやなぁ」

「まぁ、白石君に風邪引かれるよりは強引でも構わへんかなて」

「・・・ありがとうな」



そんな言葉が耳に篭った。私は一瞬ドキッとその声に反応し、拭くのを一時停止
する。すると不意に白石君は顔を私の高さに合わせるように上げ、背伸び状態
の私を支えるように腰に手を回す。私と彼の焦点がぴったり合って、真剣な眼差
しに私は吸い込まれていく。



「・・・ってああっ!!」



今、気付いた。大切な、大事なことを忘れていた。私にとって、本当に重大な。お
互いの気持ちをちゃんと言って、分かり合ってからぁ・・・じゃなくて。これを忘れて
大変な事になる可能性だってあるかもしれない。



「ど、どないしたん?」

「ととととと 図書室の鍵閉めるの忘れたっ!」

「・・・」

「・・・」



私何言ってるんだろ。何考えてるんだろ。過去って戻せますか神様。図書室の鍵
閉めを忘れたぐらいでキスを寸止めする奴がいるか、とかって引かれてるよ絶対。
私、白石君の髪を拭いてる筈なのに私の方が(冷や)汗を掻いてきたような気がす
る。



「ご・・・ごめ、んっ!?」



私の言葉を遮る、ちょっと強引なキス。触れるだけじゃなくて、息苦しくなるくらい
の。離れたと思ったらまた降って来て、私をまた壊してゆく。そして先程より更に
熱く、喉の奥まで白石君でいっぱいにされる。



「っはぁ、はぁ」

「...あかんわ」

「しら、いしく・・」

「こっち見たらあかん」

「何、で?」

「男にはいろいろと事情があるっちゅう...てそないなこと聞かんでええねん!」



顔を包帯の巻いてある方で隠し、その隙間から仄かに赤く見える白石君の頬。も
しかして、白石君も私と同じ気持ちでいるんじゃないか、なんて考えてしまう。その
手でもっと紅を隠さなきゃ、本気って認識するよ。



「白石君て結構、強引なんだね」

「よぅ言われんで」

「私と一緒やんな」

「ん、お互い様やな」



また、同じ。そんな共通点を見つけたら、自然に笑みが零れるのも同じ。私と白
石君の共通点はもっとあるのだろうけど、まだ知らないことだって沢山ある。不
意に白石君の右手が差し出される。一瞬 頭の上にハテナが浮かんだが、次に
電球に変わって、その差し出された手に私の左手を乗っける。



「ほな、図書室いこか」

「うん!」

「あ、せや」

「どした?」

、好きやで」

「・・・私も、やで。蔵ノ介くん」

「また、同じやな」

「せやねっ」



























壊-同-熱
Equal



      (熱く、暑く、篤い )   (そして君に、壊されてゆく)

































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 蔵とぃぅ存在を固定してる夢主です
 クラスメイトってだけど威容に仲良い・・・?
 シュールに強引そうな白石クン(私の妄想)←

 今回ちょっと長めになりました^^
 てか最近一ヶ月更新になってる...
 これは・・・ヤバイ傾向!?(何がだょ)




 090211